2008年03月10日

■■よろず帆船人突撃インタビュー [23] 翻訳家 大森洋子さん 前編■■

一昨年から当Salty Friendsでもシリーズ続行キャンペーンを行ってお
ります、早川書房の「海の覇者 トマス・キッド」シリーズ。皆さ
んはもう読んでいらっしゃいますか?
フランス革命後のイギリス海軍を舞台に、強制徴募され水兵になっ
たカツラ職人のキッドがやがて「水に慣れ」、有能な船乗りとして
活躍、昇進していくさまを描いた海洋冒険小説です。

Victory.jpg
イギリス、ポーツマス軍港に保存される「現役」の<ヴィクトリー>
写真提供:大森洋子さん


そしてこの「トマス・キッド」シリーズの第6巻「ナポレオン艦隊
追撃」が本日3月10日発売!!!
今回の「よろず帆船人」は、このシリーズ当初からの翻訳を手掛け
ていらっしゃいます、翻訳家の大森洋子さん。今月と来月の「前篇・
後編」、二か月にわたっての掲載です!


お名前:大森洋子さん
ご出身地:北海道
横浜市立大学英文科御卒業 英米文学翻訳家
おもな翻訳作品:「アラン、海へ行く」「海の暴れん坊オークショ
ットシリーズ」(いずれも早川書房)など多数

以下、
大森洋子さん:「YO」(敬称略)
Salty Friends:「SF」


SF:帆船時代の海洋(海軍)小説を翻訳なさることになったきっ
   かけは何ですか?

YO:今からウン十年前、地下鉄のホームで「日本翻訳専門学校創
   設」というポスターを発見。それがわたしの運命を変えまし
   た。
   そのとき大学を卒業して出版社で編集者をしていたのですが
   小さいころから物を書きたい、というのが我が見果てぬ夢!
   当時はいまのようにカルチャーセンターなどはなく、専門学
   校といえば英会話とか英文速記(年が知れますね!!)の学
   校だけでした。
 
   翻訳の学校なら、原書をじっくりと読んで、作者の意図をつ
   かみ、それをいい日本語で表現することが勉強できる、そう
   思って即、飛びこんだのです。英語は小学校5年から習い始
   めて、すごく好きでした。いちおう、英文科卒です。
   その学校で出会ったのが『ホーンブロワー・シリーズ』だっ
   たのです。『海軍士官候補生』を読むや、帆船の世界のとり
   こになってしまいました。
   
   風がないと帆をだらりと下げて死んでいる船。それがひとた
   び風が吹きだすと、帆を大きくふくらませて走りだす。人間
   が造った人工物にすぎない船が風ひとつで死者から生者へ、
   生者から死者へとまるで生き物のように姿を変える、そのお
   もしろさにとりつかれたのです。
   帆船内の生活も初めて知ることばかりで、未知の世界を探検
   するおもしろさがありました。

Cianes Noa.jpg
シアネスの町から、水兵たちの叛乱で有名になったノア錨地を臨む
写真提供:大森洋子さん

   
   そして、海。わたしは大学時代、山登りをしていました。山
   は一つの頂点へ向かって進んでいきます。海は一つの点から
   果てしない広がりへと出ていきます。この海の世界にも魅了
   されました。そして思ったのです、ああ、わたしは函館の生
   まれで、ずっと海を見て育ってきた。おじいちゃんは高田屋
   嘉兵衛のような海産商だった。父は水産会社に勤めていた。
   小さな舟も持っていた。わたしのなかには”海”があったの
   だと。

   こうして、翻訳をやれるのなら、海洋小説をやりたい、って
   思うようになったのです。とりわけ帆船小説を訳せたら、幸
   せだなあ、って。
   でも、応援してくれていた出版社の編集長からは、「帆船な
   んてマイナーなテーマを選ばないで、もっとポピュラーなも
   のを選んだほうがいい」ってアドバイスされました。でも、
   好きなことをやったほうがいい、って思って。その編集長は
   いまでも応援してくださってます。

Guildford 6.jpg Guildford 5.jpg
キッドの生まれ故郷ギルフォードの町
写真提供:大森洋子さん

 
SF:今まで手掛けられた作品で、特に翻訳に苦労なさったシーン
   はありますか?

YO:帆船小説はたくさんの作家が書いているので、どの作家も自
   分独自のものを出そうと必死です。一つの作品のなかにかな
   らず一つは自分が発見したことを入れてきます。とりわけ、
   操船や総帆、航海術では。

   キッド・シリーズのジュリアンもそうです。今月、発売に
   なった第六巻『ナポレオン艦隊追撃』では嵐のなかで
   ネルソン提督の乗る<ヴァンガード号>を<アレクサンダー
   号>が曳航するシーンがあります。
   細いヒービング・ラインを太いホーサーに繋ぎ、さらにメイ
   ン・ケーブルに繋いで二隻を繋ぎ合わせるのですが、それを
   どうやってやるか。英文をまるで数学を解くように正確に丹
   念に読んで、図を描き、想像力を働かせて読み解いていきま
   す。
   
   このとき<日本丸>で太平洋を往復した経験がものすごく役
   に立ちます。想像が体験に裏付けされるのですね。
   こうして読み解いたら、それをどう読者の方々にわかりやす
   い日本語で伝えるか。これは苦労するところでもあるし、楽
   しいところでもあります。

Rose&ship.jpg
英国海軍の水兵達が起こした「ノアの叛乱」の舞台となったシアネス、
メドウェイ川に浮かぶ帆船
写真提供:大森洋子さん

   
   もう一つ、最初のほうで、キッドがボートで<テネイシャス
   号>を曳いてジブラルタルから出る場面があります。ボート
   のなかに小錨を積んで運ぶのですが、その積み方も厄介でし
   た。
   これも英文から解き明かすのですが、わたしはとうに見つけ
   てあります,ジュリアンのネタ本を!  John Harland の 
   "Seamanship in the age of sail" はすばらしい本です。こ
   のなかにジュリアンが使うシーマンシップがほとんど出てい
   ます。イラストがすてきなので、ながめているだけで楽しい
   です。 
   
   ジュリアンはわたしの疑問・質問にすぐにe メイルで答えて
   くれます。でも、残念ながら、英語なんですよね、日本語じ
   ゃなくて!
   そして、わたしの懐刀となってくださる方々がいます・・・
   元日本丸船長とか、郵船船長とか、元機関長の家人とか。感
   謝、感謝です。

cover Kid 1.jpg cover Kid 2.jpg cover Kid 4.jpg
原書の「トマス・キッド」 写真提供:大森洋子さん
 

SF:「キッド」をまだ読んだことのない方に、「ここがウリ!」
   というところを教えて下さい。

YO:なんと言ってもキッドが強制徴募された水兵から提督にまで
   出世していくというところです。
   士官になって、ほかの帆船小説の主人公たちとどんな違いを
   ジュリアンは見せていくのかと、興味津々でしたが、彼は
   キッドを水兵の感覚を持った士官に仕立てていきます。その
   型破りなところがキッドのおもしろいところですね。
 
   そして、レンジのキャラクター。キッドのキャラクターでは
   書けないことをジュリアンはレンジに託して書いています。
   自然児のキッドと知性派のレンジが合わさって、このシリー
   ズの幅と深みが出ているのだと思います。


SF:原作者ジュリアン・ストックウィン氏の印象は?

YO:ジュリアンに初めて会ったとき、なんて大きな人か、とびっ
   くりしました。縦横ともに大きい。それがぼそぼそと小さな
   声で話すのです。すると、奥さんのキャシーが大きなはっき
   りとした明るい声で通訳してくれるのです。ジュリアン英語
   からキャシー英語に!
   
   ジュリアンはほんとにシャイな人でした。最初はこれでジュ
   リアンとじかに話せるようになるのかなあ、と心配になった
   のですが、翌日、打ち解けると、わたしが”キッド”の隅か
   ら隅まで知っているので、ジュリアンはまるで少年のように
   喜んで、いろんなことを話してくれました。
   
   キャシーは彼の名セクレタリーでもあり、各地案内の分刻み
   のスケジュール表を渡してくれました。「さあ、時間よ」と
   キャシーが言うと、ジュリアンが、「もう5分、ヨウコにぜ
   ひあそこを見せたい」とわたしを引っぱっていくのです。ほ
   んとに少年のようです。
   そしてキャシーは大きな少年の面倒をみるやさしくて有能な
   母親のようです。彼らのエージェントのキャロルが「ジュリ
   アンは18世紀を生きている人、キャシーは21世紀を走っ
   ている人」と言っていましたが、まさしくそのとおり。もの
   すごくいい、うらやましいご夫妻です。

Julian portrait.jpg Julian&Kathy.jpg
「キッド」の原作者、ジュリアン・ストックウィン氏のポートレイト
仲睦まじいジュリアン&キャシー
写真提供:大森洋子さん
 

   ★「キッド」が映画化されるとしたら、俳優は誰を?ズバリ
    7巻は出るのでしょうか!?気になる質問に、大森さんは
    一つひとつ丁寧にお答えくださいました。この続きは次号
    4月号で!

  ◆「トマス・キッド」シリーズ続行キャンペーン◆

私は実も「ホーンブロワー」などの海洋冒険小説から帆船にハマっ
た一人ですが、かつての「帆船ブーム」も今は昔。早川書房から同
じジャンルで出版されている「オーブリー」シリーズも販売数が伸
びず、続巻の刊行は未定、とのこと。寂しいかぎりです。

今後ともSFでは、海洋冒険小説の火が絶えぬよう、引き続き
シリーズ続行キャンペーンを行っていく予定です。みなさまのご協
力を何卒よろしくお願いいたします!!

キャンペーンの詳細はこちらをクリック

本日発売!「トマス・キッド」シリーズ第6巻「ナポレオン艦隊追撃」Amazonで購入するにはこちら

インタビュー:Qたろー


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