2012年06月24日

■□ 大阪市帆船「あこがれ」によるセイル・トレーニングと学校シンポジウム レポート by ふっくん □■

去る、平成24年2月18日(土) 13時〜16時に、大阪市住之江区南港北にあるATC ITM棟4階 セミナールームにて、『大阪市帆船「あこがれ」によるセイル・トレーニングと学校シンポジウム』(主催:公益財団法人大阪港振興協会  後援:国土交通省近畿運輸局、大阪市、大阪市教育委員会)が開催されました。このシンポジウムは、学校関係者の皆様に広くセイル・トレーニングを認識していただき、「教育」として帆船「あこがれ」を活用していただければ、との思いから開催されたものです。

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講演内容は、まず船長から「セイル・トレーニング」とはどういったものか?という話からはじまり、その後に帆船「あこがれ」を使用し実際に航海を体験した参加3団体の報告がありました。そして、「セイル・トレーニング教育効果の『見える化』」と題し、セイル・トレーニングを体験してどのような変化が見られるのかを検証する方法の紹介などがありました。

実際に船に乗っての体験談をきくと、こんな効果もあったのだ!と驚くほどの変化も見受けられました。
以下に詳しくこのシンポジウムの内容をレポートさせて頂きます。次項有 






『セイル・トレーニングと学校教育シンポジウム〜生きる力をはぐくむセイル・トレーニングって「なに?」を「なるほど!」に〜』


平成24年2月18日(土) 13時〜16時
於:大阪市住之江区南港北2−1−10
  ATC ITM棟4階 セミナールーム

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1、開会の辞

司会進行 帆船あこがれ クルー 大谷彩恵さん   
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2、主催者挨拶

公益財団法人 大阪港振興協会 会長
五十嵐 英男氏
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 平成6年度〜青少年の育成と海事思想の普及を目的として「帆船あこがれ」を活用したセイル・トレーニング事業を実施している。
 日本の自治体の中では唯一大阪市だけが実施している事業。大自然を相手にみんなで力を合わせて帆船を走らせていく。そういう事を通じて責任感や協調性・リーダーシップを養う事ができるという事で、特に青少年の育成には大変効果的である、という事が言われている。
・今までに32,000人の方が乗船し、航海距離は33万km、地球を約8.3周している。
・竣工して18年で国内では98の港、海外では16カ国24の港に寄港している。
・2000年(平成12年)には、東周りヨーロッパ経由で日本の帆船で初めて8ヵ月をかけて世界を1周した。
世代間交流航海、学校・教育をテーマに、不登校の子どもたちを対象にした航海、環境をテーマに等、様々な航海プログラムを作っている。






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3、第一部 セイル・トレーニングとは

講師:大阪市帆船「あこがれ」:船長 久下剛也氏
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まず、自己紹介として久下船長が今までに乗った国内外の6隻の帆船(「日本丸」、「スクーナー海王」、「Nao Santa Maria」、「S.O Newzealand」、「S.O Adventure」、「あこがれ」)の案内等を聞く。

セイル・トレーニングとは、帆走訓練・洋上鍛錬などキツイ・厳しい事を想像される方がいらっしゃるが、そうではないと説明したい。

1939年に第2次世界大戦が勃発した際、イギリスの多くの商船が撃沈したが、その時若い船員が先に死に、熟練の船員の多くが生還した。船会社のオーナー アルフレッド・ホルト氏がこの差を調べてみると、熟練船員は帆船で訓練を受けてきたという共通項が見つかった。もしかしたら、帆船でトレーニングを受けた人は生き残ろうとする意思が強いのではないかという仮説を立てた。そして、教育者のクルト・ハーン氏は「アウトワード・バウンド」という冒険プログラムを開発。「山や船などで、自分しか頼るもののない状況に放り出す」という教育を行うと若年船員の生存率が向上したそうだ。
 このような事が体系づけられて1950年代に多くのセイル・トレーニング団体が設立され、セイル・トレーニングが「生き残る」教育から「青少年を対象に社会生活や人生を充実したものにするトレーニング」へと変化して、それから60年を経て、現在ヨーロッパを中心にオセアニア、北米、南米等、世界各地で行われている。

「セイル・トレーニング」とは、大自然の海を舞台にした航海を通じて、協調性、チームワーク、リーダーシップ、チャレンジ精神などを養うプログラムであり、メンタル(心と精神)面を養うトレーニングである。キーワードは、「新しい自分発見」。

「新しい自分発見」をする過程はまず船に乗船すると、慣れない環境で不安な気持ちになる。そして悩んだり考えて、今まで考えもしなかった事に気づいたり発見することがある。そして今まで分からなかった事が分かった時、それが自信になる。このような一連の異空間での「体験」が「経験」となり「新しい自分」を発見する事ができる。

 今なぜ帆船かとよく聞かれるが、このような事を体験するのには帆船が一番適していると言われている。

 新しい学習指導要領では、子どもたちの「生きる力」をよりいっそう育む事がうたわれている。「生きる力」とは、知・徳・体のバランスのとれた力の事であり、変化の激しいこれからの社会を生きるために、確かな学力、豊かな心、健やかな体の知・徳・体をバランスよく育てることが大切だといわれている。

 「帆船という環境」は、さまざまな事をその場で体験できる、とても効率の良い空間であり、まさに「生きる力」に結び付く、オールインワンの環境を備えている乗りもののひとつではないかと思われる。

 ただし、これだけ素晴らしい船があるのに、本当に参加して欲しい人はなかなか自分からは参加してこない。学校や身近な方からの働きかけが一番大きな力になる。






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4、第二部 セイル・トレーニング参加団体による報告

 (1)海事啓発における帆船「あこがれ」の活用事例
講師:国土交通省近畿運輸局 海事振興部船員労政課長 山口幾氏
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海洋国日本 海に関する国民意識・教育現場での海運の認識・そして海事啓発活動 最後に「あこがれ」の活用度についてご報告させていただきたい。

日本は4面を海に囲まれて海に深くかかわっている。一人でも多くの方が海を身近に感じ、関心を高めていただきたい。
日本の主要資源の99.6%が船舶の輸送に頼っている。船員が不可欠。
海に関する好感度 海が好き 64.7% 嫌いな原因は日焼け/紫外線など
「海の日」の行事認識度 1位花火大会 57.3% 2位ビーチバレー大会 31.8%
3位クルーズ 21.6%
海事教育の体験がない 47%
海運(海上輸送)の重要性がわかる 63.0%

中学校教諭にとったアンケートでは、「海運や船員について」
77%が取り上げていない。

船員という職業を73.7%の人が知らない。

現在の日本人船員は50歳以上が51%。若年船員の確保が課題。

そのため、出前講座などを開講して啓発活動を行っている。


学校行事で海や船に関する事に取り組んでいる学校は47%
内容はカヌー・カッター・カヤック等がある。

アンケートの結果から学校教育の場におきまして生徒たちが海や船に関心を抱くような環境作りの取り組みが必要。

あと、先生の声の中で、このアンケートを通しまして、アンケートに答えながら自分自身が海や海運という事から遠い所にいる事が気づいた。

我々にとってもっと海・海運といったものを学ぶべきではないでしょうか?という意見もいただき、啓発活動の大きさが伺われます。

近畿運輸局の海事啓発事業の例

・フェリーや帆船などの見学会
・体験乗船会
・クルーズ客船のパネル展示
・海運や船員の仕事についての講話
・環境教室 等

その中に「あこがれ」の活用事例もある。


■海をより身近に感じ、関心を高めていただきたいという事業の一環で帆船「あこがれ」を利用している。
例としては、小学校への出前講座(船員の仕事等)、停泊中の「あこがれ」への見学会、ヤシの実による甲板磨き・展帆作業等、船長等の話(船の種類・船員の仕事)をしていただいた事がある。
そこで、帆を張る事によって、皆が協力しなければならないというチームワークの大切さなどを学んだりした。また、セイル・トレーニングを経験した後、人の話を聞く姿勢が変わった、達成感をもつ喜びを体験する事ができたという感想を聞いた。









(2)中学生にとっての帆船体験
講師:NPO法人京田辺シュタイナー学校 初等・中東部教員 吉田幸恵先生
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シュタイナー学校では、実体験とともに学ぶ事を大切にしている。7年生(中1)の時に大航海時代を学ぶ。天文学を学ぶのにも「あこがれ」に乗船すると実体験から学べる。例えば北極星を見ながら天測方位の話を聞いたり、港の近くになると地上方位の方法を聞く。広い洋上では北極星の高さで自分の場所を知る程度のおおざっぱな位置の出し方で良いが、港の近くになると陸に乗り上げる可能性があるので、より精度の高い位置の出し方が必要。その時その時で大事な事を使い分ける方法などを実体験から学ぶことができた。
 おおざっぱにしか物事に取り組めない子供がいる一方で、細かい事は得意だがおおざっぱに物が考えられない子供もいる。どちらも一方ではダメで、その時の状況によって必要なやり方が違う、という事を実体験をもって体験することができた。

 1泊2日の航海ではマスト登りが一番印象深かった。一人では到底マストなんて登れないが、スタッフの技術や励ましがあると登る事ができる。「できた」という体験をする事が良い経験になる。

 また、狭い船内をうまく使った細かい知恵が見える。たとえば、雑巾を干す紐は2本の紐をひねってあるだけなのだが、風が吹いても雑巾が飛んでいかない。色んな便利なモノがあふれている日常からこの船に来ると、とてもシンプルで余分なものが無く、物事の本質が見えやすいと感じる。

 船酔いをしても、もう一度乗りたいという子供たちもいる。将来の夢を聞くと外国に行きたいと答える人が多かった。外国を近く感じる事ができた。

帆船に乗ると、流体力学などの物理や気候、海流や天文学など、様々な事に興味が出てくる。星を頼りに航海ができればと思う。

 他の学校の方にもこういう素晴らしい体験をさせてあげたい。








(3)セイル・トレーニングによる生徒の変化に関して
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講師:KTC中央高等学院 学院長 小林英仁氏
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 KTC中央高等学院は単位制・通信制高等学校の「屋久島あおぞら高等学校」のサポートキャンパス。通信制高校はレポート中心だが、在宅だけでは学習が難しいのでサポートキャンパスという部分で学習支援、キャリアデザイン教育等をしている。
 「屋久島あおぞら高等学校」の教育目標は「豊かな人間性の育成」「次世代を担うリーダーの育成」「自分で考え行動する主体的な人の育成」「たくましく生きる力を育む」という4つのものがある。

 最近来校する人を見ていると、リストカット(手首を切る自傷行為)をしたり、目と目を合わせて話せない人がいたりと、「生きる力」が弱くなっているように思う。

 生きる力を身につけるのに不足している点は「遊び体験」「仕事体験」「不自由体験」、この3つではないかなと思っている。

帆船「あこがれ」を知るきっかけになったのは、校長の知人が大阪府内の定時制工業高校の先生で、「大阪にこんな船があるから一度話を聞いてみては?」と約6年前に紹介をいただいた。セイル・トレーニングの中には「遊び」「仕事」「不自由」が自然と組み込まれている。否応なしに経験することができる。

「あこがれ」の利用方法というのは屋久島でのスクーリングに参加する時の手段(5泊6日)で、15歳〜18歳が中心だが、通信制の特性として20歳を超える人もたくさんいる(最高28歳)。自分たちで目的地に到着した達成感は彼ら・彼女らの自分肯定感が高まる。結果として協調性、チームワーク、リーダーシップ、チャレンジ精神が養われると感じる。

文部科学省で「生きる力」を育むと学生指導要領にうたわれているが、一定以上の日数をかけた形で「セイル・トレーニング」を行うというのは必ず有効であるのではないかなと思っている。





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KTC中央高等学院 キャンパス長 鈴木貴之氏
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 スクーリングでは話をするのだが、名古屋の自分の学校になると送りの車から出れなくなる、中1から不登校になった女の子がいる。

 大阪南港で「あこがれ」に乗船する際は、うなずくか首を横に振ることしかコミュニケーションを取らなかった子が、船で仲間と時間を過ごす中で笑顔が増え、いつしか輪の中に自分から入っていけるようになった。女子のみならず、男子とも好きなアニメの話をしたりする光景が見られた。屋久島での修了式では涙ながらに自分の経験や想いを語ってくれた。

 私はその子が笑っている表情を初めて見る事ができた。下船時に書いた寄せ書きに「みんな大好きだ」と書いており、彼女の気持ちの変化を端的に表していると感じている。

 若者たちが本来持っている前向きな気持ちを引き出してくれ、それ以後のキャンパスの生活にも大きな変化を与えてくれたセイル・トレーニングに感謝している。

 名古屋に戻った今は、自分ひとりで学校に登校できるようになった。「海外留学」か「語学の学べる専門学校」の進路を希望している。

 家を出ることもできなかった彼女がこのような進路を希望するきっかけとなったのは紛れもなくセイル・トレーニングでの影響であったという風に考えている。

 セイル・トレーニングの教育的効果はとても大きな意味を持っていると思う。合わせて、セイル・トレーニングのプログラムは他者とのかかわりを通して自己を見つめなおす事や、自分の価値観・世界観を広げる事にもつながる。自分はこれからどう生きていくのかを考え、今後の進路選択を具体的に考える大きなきっかけになると確信している。






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屋久島あおぞら高等学校 教諭 菊池 亮平氏
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2011年10月3日〜8日(5泊6日)の大阪南港から屋久島安房港の航海に乗船した。
まず、この出港時の写真と下船時の写真を見ていただきたい。出港時の写真は表情が硬く、距離感がある。しかし、下船直前の写真では笑顔が見られる。明らかに変化が感じられる。

これは、ある日突然表情が変わったのではなく、様々な困難に打ち勝ちながらこのような表情に変わってきた。これからこのプロセスについてお伝えできれば、と思う。

乗船時、日常から非日常へ行くのに不安を感じる。この船で本当に屋久島に行くの?明らかに表情がこわばっている。身も心も硬い状態である。
1日目から2日目。不安・緊張で話が耳に入らない。初対面の人ばかりでギスギスしていて緊張している。掃除もやらされている感じがある。

しかし、だんだん「自分がこの船の中で何をしなければならないのか」という役割を考えるようになる。そして、気遣いなどのコミュニケーションが生まれる。

5〜6日目の当直。一歩間違えば他の船とぶつかったりする緊張感がいいエネルギーを出す。

下船時、顔を上げて話を聞く事ができた。


マスト登りの時、はじめはやりたくないからジャンケンをしたが、下船する頃は登るためにジャンケンをしていた。能動的・積極的な姿勢に変化がみられた。この事が自信につながると思う。

屋久島に着き、陸上でのスクーリングの2泊3日で船上の事を振り返り、涙が止まらない生徒も。全員の表情が、達成感に満ちあふれた写真が撮れた。

生徒が必ず残す感想は「仲間がいたから」という言葉。
自分以外の誰かの存在が自分にとってはなくてはならない存在なんだという風に、このセイル・トレーニングを通じて生徒たちは実感している。同時に自分の中に潜んでいる力を垣間見る。自分という存在もまた価値あるものとして感じられるようになる。非日常だからこそ発見する事ができた潜在能力。それこそが「生きる力」なのかな、という風に考えている。

前述の乗船時と下船時の2枚の集合写真の生徒の配置はほとんど同じ。
下船時に集合写真を撮り直したいという生徒のリクエストがあった。周りから「君ら変わったね」と声をかける以前に、自分たちが既に自分たちの内面の変化に気づいたという証拠になるのかなと考えている。
日常生活では見過ごしていた部分。非日常的な生活で色んなものに打ち勝ったからこそ考えられた事なのかなという風に思う。

これから生徒が必ず何かを選びとって前に進んでいく上で、自分で行動していく能動的な姿勢、そのひとつとしても、大切なのかなと考えている。いずれにしても、このセイル・トレーニングスクーリングが生徒に与えた影響というものはとてつもなく大きなものと私としては考えている。
教育的効果も多分に期待できるのかなと考えている。


■ ■ ■ 小林校長の締めのお言葉

一番大切なのは、彼ら自身が「できる」自分を発見すること。それと自分が「ここに存在していていいんだ」と他者から認められる・承認されること。この反対に他者を承認する、そして最後に自分自身に対して「自分はここにいていいんだよ」という自分自身への承認。こういうことが、このセイル・トレーニングの経験の中から育まれていって「生きる力」という部分の元になっているのではないかなと思う。

  





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5、第三部 セイル・トレーニング効果の検証方法と事例紹介

セイル・トレーニング教育効果の『見える化』
講師:NPO法人日本セイルトレーニングスクール 理事長 守田明氏
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 セイル・トレーニングで体験した成果をどうやってうまく人に伝えていくことができるだろうか、という事を団体として取り組んでいる。2008年に横浜に「あこがれ」が来航した際に1泊2日で2回ほど「CHEQ(チェック)」という効果測定ツールを使用し、教育効果の測定を始めた。また、2010年「あこがれ」が上海に行く際にも調査した。

 我々は、「心を育て、絆を深める青少年教育・セイルトレーニング事業の確立」を考えている。セイル・トレーニングは「レジャー」ではなく、教育の一環と考える。教育とは本来は理想と現実を埋める事が教育であったり研修であったりすると思う。しかし、その時に理想や現実というものを明確にしないと、自分たちがやっている事が正しいかどうかが分かりにくいのではないか。そのためにはまずデータを用意し、そしてEQ(心の知能指数)化する。社会性と豊かな感性を備えた青少年の育成を目指している。そして、社会教育の実現といいますか、先生でも親でもなく、社会の大人たちが子ども達を支えるというものを目指している。

 セイル・トレーニングが教育に適している理由について、まず「短期合宿方式」で、「教育効果を引き下げるIT機器や携帯電話・ゲーム機等を排除する事ができる」ことがある。一人遊びができない環境をつくれる、ということ。そして、船内という限られた空間の中で少人数チーム編成のため、他者とかかわらざるを得ないという環境。それから、共同生活・共同作業全てが自然と教育効果を引き上げる要素となっている。

 では実際に、どのようにセイル・トレーニングを受けるかというと、まず乗船し、その後「CHEQ」という検査を受ける。その結果を数値化し、参加者の属性(心の状態)を調べる。
そして、どこをのばすかのプログラムを作り実践。再びCHEQで検査を受けて下船。日本セイルトレーニングスクールで体験成果に関する所見・課題検討、そして参加校への報告という流れになる。

 EQとは1989年にアメリカで発表になった「心の知能指数」の事で、心の中の可視化(9項目=積極性/目標達成力/ポジティブ思考力/ストレス対処力/セルフコントロール/コミュニケーション/チームワーク/ホスピタリティ/状況認識力)により、参加者が成長を実感し、その後の日常生活でも意識する事で自分の可能性を引き出し、周囲と協調して社会的スキルを伸ばしていく機会を与える事が可能になると考えている。アンケート・感想文ではなく、潜在意識を探る測定システム、という感じである。

 セイル・トレーニングは誰に対しても大きな効果を表すというものではなく、自分から積極的に取り組んで行っている人は得られるものがものすごく多いが、早くこの時間が過ぎないかな、と思っている人は成長や変化があまり見られない、というのが見える。

 集団での協調性、個人の内面的強さがともに大きく変化した事例がある。実は後になって教えてもらったのだが、彼は不登校だった。
親が申し込んできていた。一番最初は、彼が不登校の方だとは全然知らなかったのだが、中々最初は仲間の輪にとけ込めない中で、下船する時に私の所にツカツカっと来て「僕、友達作りって下手だと思っていたけれど、そうでもないんだってわかりました」とペコリと頭を下げて下船していった。1泊2日でこんなに人が変わるんだなと非常に強く実感した瞬間だった。

 航海条件(参加集団属性/規模・航海日数・気象等)を教育効果につなげるキーポイントとして、航海前に自分の状態を数値化してつかみ、それを意識した後に自分自身をどうやって伸ばしていくのか、その時にセイル・トレーニングはメンタルタフネス(内面的な強さ)という所と、社会的能力を感動体験とか共同生活の中から得ていくものだと考えている。

 セイル・トレーニングの教育的効果定量化のメリットとして、1「何となく」ではなく「具体的に」自分の内面に関心を持たせる。2 行動特性「コンピテンシー」の把握で指導方針が明らかになる。3 「教育効果の見える化」で改善の方向性がわかるのではないか、と思われる。






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6、閉会挨拶

公益財団法人 大阪港振興協会 事務局長 木村氏
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 当協会ではこのシンポジウムを教育効果のある帆船「あこがれ」によるセイル・トレーニングを、市民の方を始め教育関係者の皆様にご紹介させていただくという事と、「あこがれ」が20年目を迎えるにあたって、その活動を振り返り、今後の活動の大きな指針をつくれればいいなという事で企画した。また、「あこがれ」の活動はセイル・トレーニング発祥の地、イギリスでも評価されており、本日のシンポジウムに際して、メッセージを戴いている。※1)
※1) イギリスより.pdf
ニュージーランドより.pdf

「あこがれ」ではこれまでも環境問題・国際交流など様々なテーマに取り組んできたが本日、講師の皆様方の乗船体験や客観的・科学的な分析に基づくお話をうかがう中で、私たちが気づいていなかったセイル・トレーニングの魅力と必要性というものを再認識させていただく事になった。

 中学の先生で海事教育を知らない方が約半分おられるといった事や、世界史の大航海時代を学ぶ中で天文学・物理学を学校の教室だけでなく「あこがれ」に乗船して自然を体験する中で、体全体で学ぶ事ができる。課外授業としても、子どもの成長にとっても、非常に効果的な方法ではないかと思う。
 それから、船上という限られた空間の中で困難を克服し、「できる自分」を発見した、という話があったが、この中で他者から認められる事で他者を承認する・自分の存在を認識する事が「生きる力」となるという事も話していた。
 こういった「生きる力」「達成感」というものが、今回のシンポジウムで感じたキーワードになると思う。

 私ども、振興協会においても、今後学校利用については学年ごとに効果の高いプログラムを検討したい。EQを活用した個別のトレーニーにきめ細かなケアをしていけるような、そんなプログラムを考えていきたいと思う。

 これからも公益法人として「あこがれ」を活用し、「達成感」「生きる力」などを養い、次世代を担う青少年の心を育て、絆を深めるように尽力して参りたいと考えている。

 また、四日市在住の全盲の視覚障がい者の方からのメッセージをいただいている。
大阪北港ヨットクラブの人たちがブラインドセイル(目の見えない人たちのセイリング)を機にヨットに乗られ、過去「あこがれ」にも2000年に知って、2003年には3泊4日で東京から北海道にも「あこがれ」で行っている。
 その方が書いておられる文章を読ませていただく。
「こうしてアクセスディンギーや帆船<あこがれ>は、私に多くの人々との出会いと素晴らしい感動をもたらしてくれました。このような活動が今後も引き続き盛大に行われ、多くの人々を、とりわけ明日を担う子どもたちが体験を通じて得た感動を胸に抱いて「生きる力」を育んでいくことを願っています。まして、私のような視覚障がい者は写真や映像でバーチャルに見る事ができません。視覚障がい者にとっては直接触れた事や体験した事が全てです。今後とも<帆船あこがれ>の活動を継続していただいて、私たち視覚障がい者にも大きな感動を与えて下さい」
という文章を紹介した。
全盲視覚障がい者の方.pdf




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7、閉会の辞

司会進行 帆船あこがれ クルー 大谷彩恵さん   
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・その後、大阪南港オズ岸壁に接岸中の帆船「あこがれ」の見学会が行われました。


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〜SaltyFriends編集局より〜


 すべての話を聞いた中で一番心に残ったのは「屋久島あおぞら高等学校」の方が話された、乗船直後と下船前の2枚の写真のお話。初日にふてくされた顔で撮った集合写真を、皆が下船式前に撮り直して欲しいと言うのでもう一度撮り直したのですが、全員が楽しそうに笑っていたのが凄く印象的でした。

 帆船という、自然相手に全力で立ち向かわなければならない容赦のない環境の中で、乗船した人は自分一人でできる事の限界を知り、他人と協力すれば簡単にできる事を学びます。例えば風が吹く中、一人でロープを引いてもビクともしませんが、何人かで引っ張ると動かす事ができます。モノがあふれ、便利で豊かな陸上の生活から一歩離れる事によって、今まで見えなかったものが見えてくる事があります。帆船<あこがれ>はそんな様々な事を無言で教えてくれます。「海が先生、教室は船」と誰かが言っていましたが、帆船に乗船し、協力して船を動かすことによって自然と協調性やリーダーシップ、チームワーク、チャレンジ精神を養うことができます。

 こういった教材は他にはなかなか無いものだと思います。それゆえに、この科学万能の今の世の中でも世界中に<あこがれ>のようなセイル・トレーニング用の帆船が何百隻も存在し、現在でも幅広く乗船されているのだと思います。

 セイル・トレーニングの本当の効果が発揮されるのは、私は4泊5日以上の「航海型」に乗ることによって深く体験できると思います。しかし、短い航海に乗船しても、多くの事を学び、感じておられる方がたくさんいらっしゃいます。

 10歳の少年・少女と同じように、年配の方々が帆船「あこがれ」で一緒に初めての船での生活を学び、ある時には先人の船での工夫に感心しながら、またある時にはお互いに協力しながら世代を超えた交流をはかる事ができます。

 また、学校等では気の弱いと思っていた子が、船ではみんなを率先してマスト等高い所に登ってまわりの人から見直されたり、陸上とは違った様々な状況を体験する事ができます。そんな時に自分に自信が持てたり、自分の新たな面を発見する事ができます。

 日本に居ながらこの素晴らしいセイル・トレーニングを体験できる帆船を、いつまでもいつまでも大切にしていきたいと、強く強く思いました。(レポート SaltyFriends編集局 藤本智成)


参考資料:akogare2012パンフレット.pdf













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