2012年06月24日

□■よろず帆船人突撃インタビュー[52]船舶海洋画家 野上隼夫さん ■□

我々帆船ファンにとって、野上隼夫さんといえばまず思い浮かぶのは
アレクサンダー・ケント著「ボライソーシリーズ」(早川書房)の表紙絵でしょうか。
ボライソーを読んで、海軍、帆船ギョーカイ?にハマったという方も
少なくないかと思います。
今回は、昨年2010年末「船の科学館」で行われた「海洋船舶画の世界
〜全館まるごと美術館計画」の会場で、野上先生にお話しを伺いました。

野上隼夫自画像2010−12−09s 001.jpg CUTTY SARK P8横右舷斜前s001.jpg
左:野上先生近影
右:<CUTTY SARK> P8


◆野上さんプロフィール◆

お名前:野上隼夫(のがみはやを)さん
ご生年:昭和6(1931)年
ご出身:茨城県日立市

昭和24(1949)年、日立造船株式会社入社。設計部で、各種船舶の設計に従事。
昭和44(1969)年、海洋船舶画家として独立。
著書:『野上隼夫艦船画集』(海人社)他

今までに描いた作品の数は、なんと2,300枚以上!!


以下、野上隼夫さん:HN
Salty Friends:SF


SF:まず、船の絵を描き始めたきっかけについて、教えていただけますか?

HN:子供のころから乗り物が好きで、よく蒸気機関車の絵などを描いていま
  した。高校は普通科だったんですが、履修科目のなかに「洋器画(ようき
  が)という科目があったんです。耳慣れない言葉かもしれませんが、要す
  るに定規、分度器、コンパスなどの製図器具を使用して、幾何学的に描く
  技法。今の製図科のような科目が得意だったんです。
    
  日立造船に勤務して4年目、設計部の社内展があり、輸出タンカーの油彩
  画を展示。これが広報部担当者の目にとまり「進水記念絵葉書のイラスト
  を描いてくれないか」と頼みに来ました。
  
    
SF:広報部の方は、社内にこんなに上手く描ける人がいるなら・・・、と思わ
  れたんでしょうね!そこからお仕事として、船の絵を描かれるようになっ
  たのですか?
  
HN:ええ。当然アルバイトは禁止されていましたが、自社のためだからと
  特別に認められて、それから毎日就業後、寮に帰ってから船の絵を描く
  生活が始まりました。多い時は、ひと月で10枚なんていうペースで描いた
  こともありましたね。
  そのうち、よその造船会社も印刷業者を通して頼んでくるようになって、
  そんなのも会社に内緒で引き受けたり(笑)。
  

SF:それはもう「時効」ですよね(笑)。今では製図といえばCADが一般的
  でしょうが、当時の設計図は、もちろん手描きですよね?
  
HN:もちろんです。船の設計図(線図の場合)は50分の1で描くので、必然的
  に紙のサイズも大きくなります。線図用机だけで5〜6メートル以上ありま
  したかね。バッテンという木の定規とウェイトを使って、一つ一つ手で描
  いていたんですが、そこにコンピュータが入って来たわけです。今まで苦
  労して描いていたものを、あっさり処理してしまう。
  
  私としては、コンピュータと勝負する気はなくてね。ちょうどその頃には
  そこそこ絵の注文も入ってくるようになっていたので「この辺が潮時かな」
  と、絵の道でやっていく決心をしたという訳です。当時、38歳でした。
  描く時は、とにかく図面。設計をやっていたお陰で、図面さえ見れば、
  あらゆる角度から見たその船の姿が、頭の中に3Dで浮かんできます。
  
  難しいのは色。特に古い船は、資料も少ないですし、図面に載っていない
  改修箇所なども、あちこち聞いたりしながら考証します。あ、もちろん間
  違うこともありますよ!(笑)
  太平洋戦争中の艦船などは、実際に乗ってらしたり建造に携わった方から
  ご指摘を受けることもあります。

野上先生 制作中.jpg FRIGATE DIANA号P8横s001.jpg 初代日本丸P10横正面に近いs.jpg 野上先生 制作中 2.jpg
左上:船の科学館「全館まるごと美術館計画 船舶海洋画展」会場にて
   制作中の野上先生
右上:<FRIGATE DIANA>P8
左下:<初代日本丸>P10
右下:野上先生の“秘密兵器”お道具一式

 
SF:なるほど。野上さんは設計畑のご出身とあって、どの船も素晴らしく
  きっちり正確に描かれている印象があるのですが、とくに帆船を描かれる
  時に気をつけていらっしゃるポイントや、大変なことなどはあるのでしょ
  うか?
  
HN:帆船はね、大変なんですよー。ロープが!(笑)全部の働きを理解して
  いないと描けませんしね。索具はセイルに隠されていない、見える部分だ
  け描くと、上下が繋がらなくなってしまうことがあるんです。なので、下
  書きの時は上から下まで全部描き、その後、セイルと重なるところを消し
  ていく、というやり方で描いています。
  
  帆船を描く時に気にするのは、やはり風と波ですね。この二つの状況に
  よって、張るセイルが違ったりするのが、難しいところかな。
  
  船の絵は、海と空と船のコンビネーションだと思っています。海や空の色
  は、場所や季節、時間によっても変わってきます。どの要素が不十分でも、
  絵として成り立ちません。絵によっては、船よりも空や海に時間がかかる
  時もありますね。
  
    
SF: 私にとって野上さんと言えば、やはり「ボライソー」なのですが、あの
  シリーズは、途中までイギリスの海洋画家、クリス・メイジャーさんが
  描いていらっしゃいましたよね?メイジャーさんが亡くなって、途中から
  交代、というのはどう思われましたか?
  
HN:あの時は早川書房から急に頼まれたんですが、彼の作品を観て、あぁ、
  この人と比べられるのはツライなぁ、と(苦笑)。
  
  ご存知かどうか、海洋画で有名なカール・G・エバースという人がいるの
  ですが、30年前彼の画集を観て感動した記憶があります。当時はちょうど
  帆船ブームでしたよね。
  で、どんな技法を使って描いているんだろうと、いろんな画材を使って
  模写を試みたんですけど、マネできないんですよ。あとから、実はごく
  普通の絵の具、ポスターカラーを使って描いていたことが分かって、
  なぁんだ!でしたが・・・。
  
  当時は、まだ「海洋船舶画」というジャンルが、日本では一般的でなくて
  試行錯誤の連続でした。
  
  
SF:カール・G・エバースの画集は、ここ(船の科学館)読書ルームにも置い
  てありますが、迫力のあるタッチの方ですね。
  ところで野上さんは、約40年、2,300枚以上の船の絵を描いてこられたそ
  うですが、その中でも特にお気に入りの絵などありますか?また資料は、
  図面以外にも何か使われるのでしょうか?
  
HN:そうですねぇ、気に入っているのは、やっぱり一番最初に描いた進水絵葉
  書の<初姫丸>、あと<常島丸>かな。若い頃はやっぱり格好のいい船に
  憧れるんですよね(笑)。帆船ではフルセイルで走っている<日本丸>
  (下写真)なんか、いいと思うんですけどね。

帆船日本丸P20横s001.jpg
<帆船日本丸>P20 帆船画の中では一番のお気に入り♪

  
  資料は、最近映像サイトで「YouTube」ってありますよね?あそこに客船
  が波を蹴立てて走っている映像なんかが、いっぱい出てるんですよ。
  そういうのをダウンロードしてとって置いて、資料に使ったりしています。
  便利な時代になりました(笑)。
  
SF:YouTubeにそんな使い道があったとは!意外です。
  では、これから描きたい船などはありますか?
  
HN:今の船は、船というよりマンションみたい。戦前の、煙突が細長いのが
  やっぱり絵になりますね。今までにもたくさん描いていますが、例えば
  客船だと<浅間丸>や<あるぜんちな丸><ぶらじる丸>とか。
    
SF:ぜひもっと帆船も描いて下さい!;;(笑)
  長々と伺いましたが、では最後にSalty Friendsにメッセージなどいただ
  けましたら。
  
HN:今までSalty Friendsの存在は知らなかったので、正直こんなグループが
  あるとは、驚きました。好きというだけでなく、実際に帆船に乗りに行っ
  たり、素晴らしいと思います。ぜひインターネットで宣伝して、この世界
  のファンを増やして欲しいと思います。

SF:微力ながら頑張ります;;
  長時間、本当に有難うございました!これからの先生の作品も楽しみに
  しています!

帆走暮色F6横遠景手前に人物s001.jpg
「帆走暮色」F6


posted by SaltyFriends通信 at 09:25| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日立造船在職の頃、野上さんとは豊中寮に居るころから、親しくお付き合いしていました。
今でも、よく思い出すのですが、テニス、ハーモニカの吹奏、ウクレレの演奏、絵画、コーラスなど多彩な実力を有しておられた方でした。
3年間ほどハワイアンのバンドを作って、楽しみました。あれから60年近く経過しましたが、時々「お元気かな」と考えたりします。
当時の田中厚君とも、「一度会いたいな」、と話しています。懐かしい人に、届けば幸いです。
Posted by 川村 治 at 2017年01月16日 12:00
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