2010年11月10日

■□ よろず帆船人突撃インタビュー〔50〕(財)海技教育財団会長、 埼長保英さん □■

記念すべき「よろず帆船人」50人めの方は、練習帆船<海王丸>のオーナー、
海技教育財団の会長、埼長保英さんです。

★注★サキナガさんの御名字「サキ」の正しい漢字は、山偏に
   旁が立、下に可の横棒なし、なのですが、文字化けしや
   すいため、あえて『埼』の字を使わせていただきます。
   何卒ご了承下さい。

ご存知のように<日本丸>は、独立行政法人航海訓練所所有&運航ですが、
対して<海王丸>は持ち主が海技教育財団、運航が航海訓練所。
そして<日本丸>が海洋系の専門学校、大学の学生さん達専用の練習帆船なの
に対し、<海王丸>は一般人も乗船可能な船です。

今回は海技教育財団のトップとして、帆船を使ってトレーニングする意義や
海運、教育の現況などについて、埼長さんが相談役を務められる川崎汽船のオ
フィスで熱く語っていただきました。

埼長会長 1.jpg
川崎汽船のコンテナ船<シカゴ・ブリッジ>にて。
右側が埼長会長。中央はインド人の船長さん。


埼長さんプロフィール
お名前:埼長保英(さきながやすひで)さん
ご生年:1939(昭和14)年
ご出身地:広島県
東京大学法律学科を卒業後、株式会社川崎汽船に入社。ハンブルク駐在員、
企画部長、などを経て、2000(平成12)年、同社社長に就任。2005(平成17)
年会長、2007(平成19)年より相談役。2009(平成21)年より(財)海技教育
財団会長、現在にいたる。2010年秋の叙勲で☆☆☆旭日重光章受章☆☆☆

ご趣味:読書、テレビ、ガーデニング、ゴルフ。いずれは海洋画、帆船模型に
    もチャレンジしてみたい!?

以下、埼長さん:YS(敬称略)、Salty Friends:SF


SF:まずは素朴な質問です。なぜ川崎汽船に入られたんですか?

YS:大学で法律学、とくに法社会学を勉強していたのですが、そろそろ就職
   を…と考え始めた頃、師事していた先生の知り合いから「川崎汽船に来
   ないか」と声がかかりましてね。
   まったく船や海運のことは知りませんでしたが、もともと出身が広島の
   江田島ですから、連絡船は日常的に使っていましたし、船は小さい頃か
   ら身近な存在でした。

   せっかく声をかけて頂いたんだし、じやあ行ってみようかな、と。すい
   ません、あんまり劇的なストーリーはないんです(笑)。
   

SF:そうなんですか。でもご縁があったということですね!
   では船に乗るようになられたのは、入社後ですか?

YS:それが私たちの時代は不況のドン底で、乗船研修がなかったんですよ。
   でも当時の海運会社としては、それがある意味、普通でした。私達の前
   の時代までは、陸上で仕事をする事務方も、研修で乗っていたんですけ
   どね。
   会社として一ヶ月とかの乗船研修をするようになったのは、私が入社し
   てしばらく経ってからのことでした。でも、その頃にはすでに年をとり
   過ぎていて(笑)。

   その後、ヨーロッパ勤務だった頃は、運航マネジメントの仕事をしてま
   して、その頃大きな貨物船などには何度か乗りましたね。あとは海事広
   報協会がチャーターした客船などでも航海したことがあります。
   
ア長会長 2.jpg
お頭つきのタイだっ***
長崎の大島造船所で、自動車運搬船<M・V・KARAWEIK>の入魂式。
「キャラウェイク」とは、ミャンマー語で不死鳥の意。
   

SF:なるほど〜。では現在の海技教育財団会長さんのお仕事についてお聞か
   せ下さい。具体的には、どんなことをなさっているのですか?
   
YS:まず日常的な実務は、常勤の理事長や事務局長などのスタッフが進めて
   くれていますので、非常勤の会長である私は、財団の活動が円滑に遂行
   されるよう配慮することを心がけています。
   
   財団では海洋関係の学校の学生さんや、生徒さんへの奨学金を貸与して
   いますが、厳しい社会情勢の中で、このような財政的支援を維持し、拡
   充していくための基盤を強くすることが求められると思っています。
   関係先にこのような事業の必要性、拡充のご理解を得るように努力して
   います。

   良い船乗りを育てるは、まず海に関連する仕事に魅力を感じてもらい、
   希望者を増やさねばなりません。いろいろな機会に、海に関連する仕事
   の魅力を話したり、書き物で触れたりするように努めています。

SF:そのあたりで<海王丸>が登場するわけですね。海技教育財団さんが帆
   船を使ったトレーニングをお続けになる理由は、やはり良い船乗りを育
   てるということと、海事思想普及の二点にありましょうか?

YS:そうですね。<日本丸>の方は、将来船員をめざす学生さん達専用の船
   ですが、<海王丸>は人員、日程に余裕がある航海では、一般の方も乗
   船可能です。これは現在の二世を建造する時、一般の皆様からもご寄付
   をいただいたことによります。
   
   ただ、厳しい予算の中でやりくりしており、近年一般の方の乗船枠が少
   なくなっている状況です。このあたり、学生さんたち実習生の訓練を主
   目的にしているということで、ご理解をいただければと思います。
   あと、少し長い航海になると、訓練生として乗船される一般の方は、
   やはり年配者が多くなりますね。もっと若い人にも沢山乗っていただき
   たいんですが・・・。
   
海王丸@船館.jpg
昨年の冬。遠洋航海の準備をしながら、東京お台場「船の科学館」横の
桟橋に係留中の<海王丸>。


   海事思想の普及については、日本各地の港で一般公開やセイルドリルを
   したり、海洋教室を開催したりしています。
   そうそう、この間初めて新潟港にも寄港したんですよ!最近の寄港地は
   お馴染みの港が多かったのですが、今回新潟は初めてということで、
   いろいろ調整や手配が大変だったようです。

SF:初めての港ということは、きっと初めて海王丸をご覧になってファンに
   なった方も多かったでしょうね!
   ところで、周囲を海に囲まれている日本は「海洋国家」と言われてはい
   ますが、それについてはどう思われますか?

YS:最近では、プールで泳いだことはあっても、海に入ったことのない子供
   もいるそうです。やはり昔にくらべて、海に接する機会そのものが減っ
   ているんでしょうね。
   これは、子供たちが受ける基礎教育の中で、海事に関する要素が極端に
   少ない、ということも原因の一つになっているかもしれません。

   ただ、例えば以前、船をチャーターして学校の先生たちをお乗せしたこ
   とがあるんですが、資料などをお渡ししても「カリキュラムが詰まって
   いて、教えている時間がない」と言われてしまうんです。これは教育シ
   ステムそのものの問題ではないでしょうか。日本は生活必需品の90パー
   セントを輸入しているのにも関わらず、です。

   私も教育関係の新聞に「もっと取り上げて欲しい」と要請したり「海の
   日」のPRに海運業界がもっとサポートしたらどうか、と業界内で提案
   したこともあるんですが、なかなかまとまらなくてねぇ…。

   ドイツのハンブルクに駐在していた時、港の近くにちょうど東京のお台
   場のような、観光スポットがあったんです。そこには出入港する船の船
   名や所属国を、付近を散策しているお客さんにアナウンスする「ウェル
   カムポイント」のような場所があるんですよ。
   いま目の前を通っている船が、どんな名前でどこから来たのか、そんな
   小さなことでも船に親しむ機会のひとつになるわけです。日本はもっと
   海浜公園など、港の周辺施設を整備する必要があると思います。
   
海王丸@帆船フェスタよこすか2007.jpg
2007年、「帆船フェスタよこすか」で。接岸作業中の<海王丸>。


SF:セイルトレーニングの普及のみならず、一般の方にもっと海や船に親し
   んでいただくためには、もっと根本的なところから変わっていかないと、
   ということですね。
   では、そのセイルトレーニングについて伺います。その必要性はどこに
   あると思われますか?

YS:海運関係者としては、常に海からチャンスをもらっていると思っていま
   す。もちろん自然としての海はリスクもありますし、いいところだけで
   はありません。
   ただ、共同作業を通してチームスピリットを身につける訓練は、なにも
   船乗りに限ったことではなく、一般人としても必要なことではないで
   しょうか。
   
   帆船での航海を一定期間経験してきた人は、性根が座っているというか、
   一本筋が通った人が多いような気がしますね。

   ただ<海王丸>のような大型帆船でやれることには、接岸できる場所や
   維持経費などの点からみても、限りがあります。もっと小型や中型の帆
   船の数を増やして、ふれる機会をたくさん作るのもひとつの方法かもし
   れません。

   たくましいプロの船乗りを育てるということと、一般の方々にも乗って
   いただいて、もっと海や船に親しんでいただくこと。海技教育財団とし
   ては、この二つの目的をきちっと追いかけたい、と思っています。

SF:素晴らしいお考えだと思います!
   では最後に、Salty Friendsに何かメッセージをいただけますでしょ
   うか?

YS:日本は海を切り離しては、生きていけない国です。ぜひ船に対する興味
   を持ち続け、同好の士を増やして下さい!


お忙しいところ、長い時間有難うございました!

埼長会長がおっしゃった、通り過ぎる船の名前をアナウンスする「ウェルカム
ポイント」。日本にもそんなサービスをしてくれるところがあったらいい
ですね。
じつはSFボラチームが日常的に活動している「船の科学館」は、東京港の
晴海、芝浦、大井埠頭などに出入りする船が目の前を通る、絶好のシップ・
ウォッチングポイントなんですよ!

<海王丸>は、東京にいる時はだいたい「船館」横の桟橋が指定席ですし、
<日本丸>はじめ、航海訓練所の他の練習船、さまざまな客船、貨物船、
南極観測船<しらせ>や護衛艦、外国の軍艦も通ったりします。
その都度アナウンスしたら、楽しそう!こんど提案してみようかな♪

(インタビュー:Qたろー)
posted by SaltyFriends通信 at 22:15| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
海技教育財団の会長さんがセイルトレーニングに関して大型帆船の航海から得られるものと中型・小型帆船の航海から得られるものを明確に分けて考えていらっしゃって、中型・小型帆船を一般市民(特に若い人)にもっと身近に接する機会が増えるよう考えていらっしゃることに一筋の光を見出せたように思えた記事でした。

帆船に乗り航海した人には理解できるけれども、乗ったことのない人にはその素晴らしさが理解できないという目に見えない大きなカベがあります。

そのカベをどう取り払っていくのか、日本の青少年教育にセイルトレーニングを体系立てて組み込んでいくことを願うNPOの一員として、大変僭越ながら共に悩み解決策を見出していきたいと願わずにいられなくなる大変勇気の出るインタビューでした。
ありがとうございました。
Posted by 守田@STSJ at 2010年12月25日 10:59
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