世界の海で帆船にかかわる人々との対談を通してつづっていく、よろず帆船人突撃インタビューのコーナー。
 今月2本目の「よろず」は、日本のセイルトレーニングを語る上で欠かすことのできない人物、元日本セイルトレーニング協会事務局長で、帆船海星や帆船あこがれのプログラム、数々の帆船祭りや帆船レースの運営にかかわってこられた、今井常夫さんにご登場いただきます。

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[SF] ご無沙汰しております。
 今井さんといえば、僕の中では「帆船のあるところ今井さんあり」という印象なのですが、実際、さまざまなシーンで長年にわたってご活躍されてきていますね。帆船<海星>の立ち上げや大阪市の帆船<あこがれ>のプログラム運営は言うまでもありませんが、継続的に雑誌に船関係の記事を執筆されていたり、横須賀帆船まつりや、慶長使節復元船<サンファン・バウティスタ>の展帆をプロデュースされたり。

[ I ] そうですね。何をしているのかよくわかりにくいとは思いますが、海洋プロデューサーという肩書もいつのまにかできました。(笑)

[SF] それぞれの帆船のことや帆船まつりの裏側など、伺いたいことが山積みなのですが、まずは原点に帰るというか、セイルトレーニングというものがいったい何なのか、歴史的側面からお聞きしたいと思います。

[ I ] セイルトレーニング、と呼ばれるものが世界にひろがっていく契機になったのは、1956年にイギリスで開催された帆船レース(Tallships' Race)です。これは、世の中から消えていこうとしていた帆船たちに最後の晴れ舞台をという、いわば時代の変わり目での最後の打ち上げ花火、というような位置づけのイベントでした。

[SF] それ以前はセイルトレーニングというものは存在しなかったのでしょうか?

[ I ] それ以前も、海軍や商船の練習船として多くの大型帆船が活躍していましたし、小型帆船やヨットを使った活動は資産家や篤志家によって行われていました。しかし、この帆船レースがきっかけとなり、帆船を舞台装置にした教育プログラムが、10代後半から20代前半の若者たちの人格形成に有効であることが、広く一般に認められるようになったのです。

[SF] たしかに、セイルトレーニングにはそういう要素がありますね。
 僕が初めて船に乗ったのは20歳をすぎてからですが、バックグラウンドの異なる人たちと、船という限られた環境の中で生活をともにするとうことは、ものすごくエネルギーのいることでした。
 学校だと自分が居心地のいいな、と思う人たちとしかつきあわなくていいわけですが、船の上ではそうはいかない。もちろん最初から気が合うな、と思う人もいますが、考え方や、年齢、人種が異なる人たちと、とにかくコミュニケーションをとって、協力してやっていかないといけない。けれど、結果としてそういう人たちとものすごくわかりあえて来るんですね。ああいう環境はなかなかないな、と思います。

[ I ] 帆船レースの話に戻しますと、この「最後の打ち上げ花火」が、思いがけず大きな反響を呼び、またやろう、ということになったのです。結果として、レースの実行委員会が形を変えて、エジンバラ公を名誉総裁とする、セイルトレーニング協会(The Sail Training Association)が設立され、この帆船レースは定期的に開催されることになりました。

[SF] 70年代以降、ウイスキーのカティーサーク社がスポンサーにつき、カティーサーク帆船レースと呼ばれていたあのレースですね。バーで帆船のロゴの入ったボトルを見るたびにちょっと熱くなります。(笑



ポーランドの<イスクラ>。

[ I ] ええ、04年からは再びThe Tall Ships Races(文字通り「帆船レース」)に戻りましたが、今でも毎年場所を変えながらヨーロッパで開催されています。ちなみにこの夏のレースは、7月10日のベルギーのアントワープの帆船まつりをスタートに、デンマーク、ノルウェー、イギリスの4都市を1カ月かけてまわります。大型帆船だけでも30隻、小型まで入れると90隻という規模。レースのスタートの光景はさながら大航海時代、という迫力があると思います。

 そしてこの帆船レースの歴史と並行して各国でセイルトレーニングのための帆船が建造されました。
 たとえば、英国では<サー・ウィンストン・チャーチル>や<マルコム・ミラー><ロイヤリスト>などがセイルトレーニング用の船として登場しました。その後、障害をもった人でも乗ることができるように設計された<ロード・ネルソン>、その姉妹船である<テネーシャス>なども出てきます。船内を車いすで移動できるようにエレベータが設置されていたり、視覚障害者のために足で確認しながら進めるようにデッキ上にガイドが設置されていたり、さまざまな工夫が凝らされています。


イギリスのジュビリー財団が運営する<テネーシャス>
車椅子のまま、マストに登ることができる。

[SF] 今ではヨーロッパと並んでセイルトレーニングの盛んな場所、アメリカやオセアニア、そして日本の話を次回はうかがっていきたいと思います。本日はありがとうございました。


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『世界の艦船』7月号に今回ご登場くださった今井さんの執筆された記事
「沿岸海上交通の課題と今後」が掲載されています。
http://www.ships-net.co.jp/detl/201007/indexj.html