<エウロパ>の船医として、ペルーのカヤオから乗船してきたブラバーさん。
乗船早々、トレイニーたちのひどい日焼けや船酔いの手当をするかたわら、
他のメンバーと同じようにロープを引いたり、食器を片付けたり。

Salty Friends通信のインタビューをお願いすると、気さくに「いいよ」と
OKして下さいましたが、実はオランダ国王からナイトの称号を賜ったばかり!
という畏れ多い方なのです***(平伏)


お名前:レエン・ブラバー
御生年:1947年(63才)
国籍:オランダ
御職業:医師(General Practitioner『GP』総合医 )
御趣味:カヤック(海、湖)、キャンプ




以下レエン・ブラバーさん:LB(敬称略)
Salty Friends:SF

SF:なぜこのお仕事を選ばれたのですか?

LB:もともと人と関わったり、手助けしたりするのが好きな性分なんです。
  12才の頃にはもう、将来は医者になるんだと決めていました。理由?医者
  になれば外国に行けると思って(笑)。
  で、医者になってから念願通り、アフリカのザンビアに赴任しました。三
  年間の任期で、妻と子供一人の三人で行ったんですが、下の子供が向こう
  で生まれましてね。帰国する時には四人になってました!
  

SF:どうしてこの航海に参加なさったんですか?

LB:とにかくセイリングが好きなんです。<エウロパ>での航海はこれが4度
  めになりますが、毎回2週間から4週間ほど、休みをとって乗っています。
  アルゼンチンのウシュアイアからケープホーンを通って南極まで、8週間
  乗ったこともありますよ。

  私の場合は、総合医としてのスキルを提供するボランティアクルー。つま
  り乗船地までの交通費は自腹ですが、乗船費用、食費などは船持ちです。


SF:船内でのお仕事について、教えて下さい。航海中、手術を執刀なさったこ
  とはありますか?今まで担当なさった中で、大変だったのはどのような
  ケースでしょうか?

LB:そうですね、頭などを切ったりした人の縫合手術は何度かありますよ。
  手術ではありませんが、今までの患者で大変だったケースと言えば、トレ
  イニーとして乗っていた糖尿病患者の女性が、ひどい船酔いからダイアベ
  ティック・コマ(糖尿病性昏睡) に陥ったことがありました。
  昏睡から覚めたあとも血糖値を下げないよう、二時間ごとに飲食物を与え
  続けなければならず、大変でしたね。

  少し専門的な話になりますが、これは糖尿病と重度の船酔いが重なった
  ケースです。あとで解ったことですが、この場合、通常のダイアベティッ
  ク・コマより深い昏睡状態に陥ることが判明しました。つまり新しいタイ
  プの糖尿病症状だったんです。

  このことから、糖尿病を持病に持つ人は練習帆船の常勤クルーになるべき
  ではない、と私は思っています。慣れていても絶対に船酔いしないとは限
  りませんし、夜間のヘルム(操舵)やマストに登っている時に発症したら、
  それこそ乗組員全員の命に関わりますからね。

  あと航海中の仕事と言えば、予防接種とか。とくに南米を例にとると、こ
  れから行くパナマは入国の際、黄熱病のワクチン接種証明書が必要になり
  ます。

 
左上:お医者さん、といえば聴診器!手前の箱は薬箱。


SF:なるほど、船酔いと糖尿病ですか…。意外な組み合わせですね。
  それでは経験なさった4回の航海のうち、一番印象に残ったのはどのあた
  りですか?

LB:そうですね、アフリカ大陸の西側にトリスタン・デクーナという小さな
  島があるんですが、この付近を航海中、すごい嵐に遭遇したことがありま
  す。
  ほぼ定員いっぱいの 50人ほどが乗り組んでいましたが、嵐が続いた二日
  間、キャプテンは全てのハッチを閉めさせて、誰もデッキに出ないよう厳
  命しました。いやもう、今まで経験したことのないすごいヤツでしたね。

  一番感動したのは、モンテビデオにある無人島、サウスジョージア島かな。
  エクアドルのガラパゴスも素晴らしいですが、最近は観光地化が進んで、
  人の出入りが激しくなってしまいましたから。
  サウスジョージア島は、入島するのに政府の許可が必要で、専門ガイドの
  同伴なしには入れません。さまざまな種類の鳥たち、トド、ペンギン、カ
  メなどに出会え、その野生の素晴らしさには本当に感動しました!

 
右上:薬箱のアップ。なんでも揃ってます。
左下:こっちは酸素吸入器。薬箱が入っている棚の横には、タンカも。


SF:今回の航海でも、クジラをはじめ色々な動物に会えましたが、本当に「生
  きるために生きている」野性動物たちって、すごい迫力ですよね。
  ところで今回、南米の帆船まつりはいかがですか?以前の航海で、このよ
  うなイベントに参加なさった経験はお持ちですか?
  
LB:帆船まつりに参加する航海は初めてです。でも僕はどっちかというと、
  単独で航海する方が好きだなぁ(笑)。
  こういうイベントはなにかと時間や行動に制約がありますからね。やれ何
  時にどこそこポイントにアンカレッジ(投錨)しろだとか、パレード中は
  何ノットで走って船同士の間隔をキープしろだとか。

  あ、でも他の参加帆船が見られるのは、そりゃ楽しいですよ!
  僕はカヤオから乗船したんですが、あまりの混雑(注1)に、他の船を見学
  することができなかったんです。グアヤキルに着いたら、ゆっくり観てま
  わるつもりです。
  

展帆した時セイルの下端がめくれ上がらないよう、バントラインに細工するた
め一緒に登った時の写真。


SF:ペルー海軍は大型の練習帆船を持たないので(注2)、一般の方は物珍しさ
  もあったんでしょうね。経済的に難しい部分もあるかと思いますが、ぜひ
  ペルーも大型帆船を持って欲しいものです。
  さて、では帆船を使ったセイルトレーニングについて、何かお考えがあり
  ましたら聞かせて下さい。

LB:いい事だと思いますよ。とくに若い人達にとっては、一生の思い出になる
  素晴らしい経験になるでしょう。
  ただ、海軍の船と民間のそれとでは、当然ですが趣旨が違います。海軍で
  は、より良き海軍軍人になるために訓練する訳で、我々のような民間の船
  は船乗りを育てるのが目的ではありません。もちろん、商船や漁労関係の
  組織に所属する船は別ですけど。

  さまざまな国籍を持った、さまざまな年齢層の人々が、同じ船で一緒に働
  くことでお互いを理解し、助け合う。セイルトレーニングがもっと普及す
  れば、世界のあちこちで続いている悲惨な戦争や犯罪が少しは減るのでは、
  なんて考えたりします。

SF:本当にそうですね!
  では最後に、SFになにかメッセージをお願いできますか?

LB:OK!
  Be“Friends”!("塩友"になりましょう!)
  No fighting! (ケンカしないでね!)

ダンクゥウェル!どうも有り難うございました!


ただ今お仕事中。黄熱病予防接種済みのリストを前に。


いつもニコニコ、優しいレエンさんはインタビューの数日前、オランダ大使館
主催の船上パーティで、国王陛下からなんと!「ナイト」の称号を授与された
ばかり。(もちろん正式な授与式は帰国後に行われるのでしょう)
これは彼の、オランダ癌協会における17年間の献身的な活動に対する褒章との
こと。

奥ゆかしいレエンさんは、「僕にそんな価値はないよ」と謙遜なさいますが、
ひと航海ご一緒しただけの私でも、彼がどんなにホスピタリティあふれる素晴
らしい方か、そして如何にナイトの称号を受けるに値する方か、容易に理解す
ることができました。本当におめでとうございます!

(インタビュー&翻訳:Qたろー)


(注1)カヤオでの一般公開は一日のみ。この一日だけで1,5000人が来場し
会場の海軍基地ゲート前には、数キロに及ぶ行列ができた。
(関係者対象の公開日は、その前日と前々日の二日間)

(注2)ペルー海軍も<マルテ>という小型の練習帆船(ブリガンティン)を
所有している。船団のカヤオ入港時は歓迎のため伴走し、可愛らしい姿を
披露していた。