50階建てのビルの間を寒風が吹き抜けていく。冬のニューヨークでは体感温度が-10℃を下回る日もざらだ。まだ気温が上がりきらない朝、僕はタクシーでジョンエフケネディー国際空港へと向かった。
 ニューヨークから2時間ばかりのフライトで、機体はバミューダの空港へと滑り込む。バミューダは冬の間は泳げるほど暖かくはない。しかし海は、どこまでもご機嫌な色をしている。ターミナルを出ると、予約しておいたタクシーに乗り込んだ。タクシーはほとんどが日本車のバンだ。きちっとスーツを着込んだ、黒人の初老の運転手は、どことなく老人と海に出てきそうな雰囲気を漂わせている。ほかのタクシーとすれ違うたびに、軽くクラクションを鳴らし手を挙げる。
 「小さな島だからね、みんな知っているのさ」
 軽く微笑むと彼は静かにそう言った。
 道は車がすれ違うのがやっとというような感じだが、誰もスピードを落とそうとはしない。道の脇には、住宅を囲む石垣があり、そのすぐ内側には、植物を植え生け垣にしている。植生がどことなく似ているせいもあるのか、沖縄の島を旅しているような錯覚に陥る。





 弓のような形をしたバミューダは人口6万5千人の小さな島々だ。空港のある端から、ぐるっとまわりこんだ反対側の端まで、車ではしってもおそらく1時間もかからない。島の中央には、ハミルトンの街がある。ハミルトンは、島にぐるっと囲まれた湾の付け根に位置していて、フェリーターミナルから、島の先端にある王立海軍工廠(Royal Naval Dockyard)まで、行くことができる。双胴船のフェリーは、ピンク色の外壁が印象的なフェアモントハミルトンプリンセスの前を抜け、しばらくの間は小さな島の間を遊覧船のようにゆっくりと進んでいく。
 ニューヨークの富豪やハリウッドスターの別荘と思わしき豪邸には、本館とは別に必ずボートハウスがあって、船で出入りができるようになっている。地元の新聞には、マイケルダグラス夫妻がどうのこうの、と書いてあってな。
 オフシーズンということもあり、ほとんど人を乗せていないフェリーは、途中からスピードをあげ、15分ほどするとドックヤードが迫ってきた。