2014年05月09日

よろず帆船人突撃インタビュー 【53】 練習帆船<海王丸>元船長 荒川博さん

<海王丸>元船長といえば、以前国枝佳明さんにもご登場
いただきましたが、今回は国枝さんの先生でいらした
荒川博さんです。荒川さんのお散歩コースのある、緑豊かな
武蔵野市体育館のカフェでお話しを伺いました。

荒川キャプテン かるた解説.jpg 船と海かるた レクチャー.jpg
船の科学館 読書ルームで行われたイベント
「船と海かるた」でレクチャー下さる荒川さん


荒川博さんプロフィール
ご生年:1931(昭和6)年
ご出身:東京都
旧制中学を卒業後、高等商船学校に入学。卒業後は川崎汽船
に入社。内航船勤務、陸上勤務などを経たのち
航海訓練所に出向し、練習船<銀河丸><日本丸>などで
後進の指導にあたる。<進徳丸><青雲丸><海王丸>の
船長を歴任した後、航海訓練所所長。

おそれ多くも、当「よろず帆船人」No.29にご登場下さった
元<海王丸>キャプテン、国枝佳明さんは教え子。
「人と船そして海」「いろはかるた船と海」「姉妹と昭和
の海」など著書多数。ご趣味は雑学とお散歩。


以下、
荒川博さん:HA
Salty Friends:SF
文中<ポン丸>=<日本丸>、<海王>=<海王丸>

【SF】いつも皆さんに伺っているのですが、まず何故
   船乗りになろうと思われたのですか?

【HA】ぼくは4人兄弟の長男なんですが、かけソバ一杯
   30円だった子供の頃は、生活が苦しくてね。
   当時の高等商船学校は、奨学金も良かったし、食費
   以外は基本的に月謝なし。さらに船会社に入れば、
   米のメシも食えるし外国にも行ける!という理由で
   商船学校を選んだんです。
   次元の低い話ですいません(笑)。

【SF】とんでもない!(笑)そういえば、今までお話を
   伺った方のなかで「外国に行けるから」という理由で
   船員という職業を選ばれた方は、意外と多いですね。
   それだけ一昔前は、海外旅行が高嶺の花だった
   ということでしょうか。

   荒川さんは、帆船では船長を務められた<海王丸>
   だけでなく<日本丸>にも長いこと乗っていらし
   たんですよね?
 
【HA】僕はもともと<日本丸>育ちなんですよ。学生時代 
   はまるまる一年、航海訓練所に出向して三等航海士
   から次席、一等航海士にいたるまで、ずーっと
   <ポン丸>でした。トータル7、8年になるかな?
   <海王>の船長になったのは、専任教官として1年半
   務めたあと、昭和59年から60年にかけてです。

   学生時代、ぼくの一つ上の学年は朝鮮戦争世代。
   <ポン丸><海王>は太平洋戦争中の昭和18年、
   2隻ともヤードを下ろして機船状態で実習していました。
   帆走を再開したのは、昭和27年だったかなぁ。

荒川さん 5.jpg
乗組員がヤードに上って挨拶する「登檣礼」(とうしょうれい)は
帆船時代、相手に対して戦意がない(=大砲に人がついていない)
ことを示すために行われていた慣習。現在は出入港時の最高儀礼。


【SF】太平洋戦争中は、ヤードを降ろして石炭運搬船に
   身をやつしていたこともありましたよね。でもその
   お陰か、ドイツの<ゴルヒフォック>やロシアの
   <クルゼンシュテルン>のように、進駐軍に接収
   されなかったのは幸いでした。

   ところで2013年、とうとう大阪の<あこがれ>も
   <海星>同様、セイルトレーニング事業を廃止しました。
   (2014年5月現在、元<あこがれ>はNPOグローバル人材
   育成推進機構所属<みらいへ>として運航準備中)
   日本を代表する<ポン丸><海王>に対してさえ、
   「2隻もいらない」という声もあるようです。
   このような寂しい日本の現状については、どうお考え
   ですか?

【HA】いま航海中の<海王>二世を建造する時にも「今さら
   帆船なんて」という声はありました。でも「無駄の効用」
   というか、すぐには効果が出なくても、後々かならず
   役に立つことってありますよね?
   私が乗っていた時には「甲板係」や「副直」という担当を
   学生の中から選んでいましたが、これが航海だけでなく
   みんなの生活全般の面倒をみるといった、とても責任のある
   職務なんです。

   最初はぎこちなくてナヨナヨしていたのが、段々変わって
   きますね。成長して自主的になっていく。全員が一つに
   まとまって作業することに、すごく意欲的になってくるようです。
   もちろん、同じような効果は汽船でも見られますが、帆船の方が
   操船が難しい分、顕著に表れるのかもしれませんね。
   当然ですが、学生を飽きさせないよう、教官達も一生懸命
   勉強するんですよ。

   私は、自然は「師善(しぜん)」だと思っています。先生は
   おてんとう様、そして船は道場。我々はそのお手伝いを
   しているだけです。

【SF】おぉーーー!!もうインタビュー終わってもいいくらいの
   名言ですね(笑)。深いです。
   さて、荒川さんは30年近く海の上でお仕事なさっていた
   訳ですが、とくに印象に残っている出来事などありますか?
   
【HA】そうですね、いろいろありますが、そういえば<青雲丸>の
   船長だったときに、夜、大阪から横須賀に向かう航海中、
   潮岬沖で人命救助をしたことがありましたね。
   11月で風が強く、シケていたためにバージ(台船)を
   引っ張っていたタグボートが転覆したんです。

   夜7時半ごろだったと思いますが、当直が点滅している
   遭難信号を発見。すぐに現場に向かうと、救命ボートで
   乗組員4名が漂流しており、なんとか救助しました。
   荒れた海で光る点のように小さな光なんて、よほど気を
   付けて見ていても見過ごしてしまいますよね。実際、
   何隻も近くを通ったのに気づいてもらえなかったそうで、
   うちの当直がたまたま見つけられたのは幸いでした。

荒川さん 海王丸028.jpg
力をあわせてロープを引く!


   そうそう、<海王>の船長だった時にもいろいろありましたよ。
   ハワイへの遠洋航海訓練中、風に恵まれ帆走だけでかなりの
   距離を走り、もうちょっとでホノルルだという頃のことでした。
   大船渡から漁に出ていたイカ釣り漁船で、大ケガした人がいる
   ので手を貸してやって欲しい、と海上保安庁から連絡が入り
   ましてね。

   うちはドクターを乗せているでしょ。急遽、帆を畳んで変針し、
   救助に向かいました。応急処置をした後、ご本人は飛行機で
   帰国しましたが、後でドクターから聞いたところでは、その方の
   ケガは結構深刻な状態だったとか。大事に至らなくて本当に
   良かったです。

   でね!話はまだ終わらないんです(笑)。それから何年か経って
    <海王>二世を建造する計画が持ち上がり、一般から寄付を
   募ることになった時のこと。そのホノルル近くで助けた
   漁師さんが、あの時世話になったからと、なんと10万円も寄付
   して下さったんですよ!びっくりしました。

【SF】まさに「情けは人の為ならず」・・・。TVドラマみたいな
   展開ですね。乗っていた学生さん達にとっても、人命救助
   なんて、めったにできない貴重な経験になったのではない
   でしょうか。

荒川さん 20,7,84034.jpg
遠洋航海訓練で訪れたハワイでパレード。


【HA】本当にそうです。あと<日本丸>に乗っていた時には、
   アメリカの核実験にも遭遇しましたよ。当時私は次席二等
   航海士で、学生たちにちょっとカツを入れようと、
   救助艇操練をやっていた時のことでした。ハワイから
   日本に帰るとき、出航して1日めか2日めの午後だったかなぁ。

   ジョンストン島の近くを航行中、飛行機が飛んできて、
   我々の頭上をぐるぐる回り、何かを落として飛び去って
   行きました。何だろうと回収してみると、中には色々な
   国の言葉で(日本語はありませんでしたが)「貴船は
   危険に向かっている。大至急もと来た方へ引き返せ」と
   書いてあるじゃないですか!

   大急ぎで操練中のボートを収容し、全速で北上中、
   翌日の深夜(昭和33年7月31日、船内時間23時45分頃)
   空を見るとキノコ雲が!!アメリカ、ジョンストン島での
   水爆実験です。折しも雨が降り出し、慌てて学生達に
   デッキハウスの中に入るよう指示しました。

【SF】なんと、荒川さんと<ポン丸>の皆さんも危機一髪
   だったとは!皆さん、ご無事で何よりでした。
   しかし荒川さんからは、本当にエピソードがエンドレスで
   出てきますね!(笑)何時間あっても足りないです。
   またぜひ、お話を伺わせて下さい!

         インタビュー:Qたろー
荒川さん Miss Inter035.jpg
沖縄で開催された海洋博で、ミス・インターナショナルの
美女たちと♪


荒川さんには、船の科学館の読書ルームでイベントを催した折にも
大変お世話になりました。そのほかSalty Friendsのボラチームを
対象としたワークショップ「荒川塾」では、帆装貨物船<パドゥア>
(現<クルゼンシュテルン>)の南米ホーン岬をまわった航海を
描いたスケッチ集「Sailing Round Cape Horn」(G・T・シュルツ作)
を題材にレクチャーして下さったことも。

荒川さんの引き出しには、海や船に関することがいーーっぱい
詰まっていて、ほんとうに次から次へとエピソードが尽きません。
たくさん上梓されたご著書も、みんな面白いですよ〜!
ぜひご一読下さい。
posted by SaltyFriends通信 at 18:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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