帆船の絵だけでなく、客船、鉄道、ダイビングの世界でも大活躍中!
西村さんのご先祖様は、「北前船」で絵も運んでいた雑貨屋さん。
今回は、東京お台場「船の科学館」で開催された「全館まるごと
美術館計画 海洋船舶画の世界展」会場でお話を伺いました。
◇西村さんプロフィール◇
お名前:西村慶明(にしむらよしあき)さん
ご生年:1948年
ご出身:京都府舞鶴市
ご趣味:鉄道模型(半分仕事)、ダイビング写真(これも半分仕事)
「・・・好きなことを仕事にすると、趣味がなくなっちゃいま
すね(笑)」とご本人。

船の科学館「全館まるごと美術館計画 海洋船舶画展」会場にて
以下、西村慶明さん:YN 敬称略
Salty Friends:SF
(添付写真のキャプションは、すべて西村さんご本人によるコメントです)
SF:そもそも、絵を志されたきっかけは何だったのですか?
YN:実家が、江戸時代から船の絵も扱う雑貨屋のようなことをやっていまして。
ふすま絵、屏風絵、錦絵などを、京都から絵師を招いて描かせ「北前船」
に積んで北海道へ売りに行っていたんです。
実家にこれらの絵がたくさん残っていて、小さい頃はよくこれに落描きを
(!)していました。なので、最初に親しんだのは実は墨絵なんです。

左:米国の5本マスト・木造スクーナー、船名は特定せず。戦前、シアトルか
ら米松を積んで日本へやってきていました。場所は三陸沖。鳥の群れは
オオミズナギドリです。
右:オランダ・テクセル島沖をかすめてドイツに向かうドイツの3本マスト・
バーク型練習帆船のイメージ。ドーバー海峡をすぎると、帆船は浅いテム
ズ河口をさけてオランダ寄りを走ってゆきます。
YN:海上保安庁から海上自衛隊に入った父の仕事の関係で、高校の時に上京し
その後進学する時に「絵をやりたい」と。ただ、絵描きでは食えないぞと
家族に反対されましてね。では商業デザインをやろうと、1968年に東京
渋谷区にある、桑沢デザイン研究所に入学しました。
その後父が海自を退職し、大阪商船に入社。今度は貨物船の通信長になっ
たんです。その頃は寄港地に船が入るたび、母の代理で父に着替えなどを
届けに行っていました。
ちょうどその頃写真をやりだした私は、父に届けものに行くたび、沖に停
泊していた船を外から撮っていたんです。
その写真を、当時サントリーに勤めていた従兄弟に見せたら「うちに船好
きのイラストレーターさんがいるよ」と、柳原良平さんを紹介されました。
当時、買ったばかりの望遠レンズを使って写真を撮っていたんですが、ご
存知のように、望遠を使って撮ると被写体が少し左右に縮みます。これを
柳原さんにお見せしたら「面白い」と。
で、柳原さんに「僕のイラストの資料のために、写真を撮って欲しい」と
頼まれまして、在学中にバイトで船の写真を撮っていました。

左:フランスの鋼製ニッケル鉱石運搬船「フランス」2代目です。ニューカレ
ドニアのヌメアからアフリカ廻りでボルドーまで年1往復の航海をやりま
した。手前の大型タグはケープタウンのもので、「サー・デイビッド・
ハンター」。ケープタウン寄港時の情景です。
右:オランダ・北海運河を帆走するポーランドの練習帆船「ダー・ポモーザ」。
北海沿岸のアイムイデンからアムステルダムまで49マイルの航行です。
KLMの機内誌「ウインドミル掲載。
SF:柳原良平さんと言えば、最近またハイボールが流行っているらしく、時々
「アンクル・トリス」を見かけますね。では船の写真がご縁となって、
柳原さんと一緒にお仕事をなさることになったんですね?
YN:そうなんです。それからしばらくバイトで資料の写真を撮っているうちに
柳原さんから「一緒に本を作ってみないか」と誘われ、至誠堂で編集兼
カメラマンの仕事を始めました。「柳原良平 船の雑誌」など、色々な仕
事をご一緒した後、オーシャンライフに入社。10年ほど編集の仕事をした
後でフリーになり、現在に至っています。
SF:なるほど。柳原さんとの出会いがあったから、今の西村さんがいらっしゃ
るんですね!
ところで、ご実家は北前船、お父様は海保、海自、商船の船乗りでいらし
たんですよね。ご自身はいかがですか?帆船の絵もたくさん描いていらっ
しゃいますが、乗船、航海なさったことはありますか?
YN:はい、撮影のために<日本丸>や<海王丸>の回航などに乗せてもらった
ことはありますね。あと、オランダで復元した<咸臨丸>の試験航海に乗
せてもらい、北海を航海したことがあります。
ただ、<日本丸><海王丸>の時は湾内ということもあり、ほとんどセイ
リングしませんでしたから、実はこの時はまだあまり「帆船」はピンと来
なかったんですよ。
深く関わるようになったのは、オランダ政府観光局から依頼されて取材で
行った1985年の「セイルアムステルダム」からです。この時、300mくら
いしか幅のない運河を、帆をあげてガーッとセイリングする<ダル・ポ
モーザ>などの帆船たちを見て、好きになっちゃいました!(笑)
それから、これは本気で勉強しようと、あちこちの保存帆船を見てまわる
ようになり、1997年に大阪で開催された「SAIL OSAKA'97」や、長崎のオ
ランダ村などにも仕事で関わるようになりました。

左:ドイツ・Pラインの練習帆船「パミール」。戦後まで生き残り、オースト
ラリアのポートリンカーンから小麦を運びつつの練習航海でしたが、大西
洋で行方不明になってしまいました。
右:アメリカ南北戦争時代の南軍の襲撃艦「シェナンドー」。太平洋で北軍の
捕鯨船を襲い続けました。ラメール連載の挿絵。
SF:オランダ村、ハウステンボスといえば<咸臨丸><観光丸>ですね!先程
<咸臨丸>のテスト航海に乗船されたとうかがいましたが、あの船を日本
に回航するとき船長をなさった野崎利夫さんにも、お亡くなりになる少し
前、この「よろず帆船人」インタビューに出ていただいたんですよ。
(野崎利夫さんインタビュー記事:
http://saltyfriendstsushin.seesaa.net/article/120651500.html )
YN:そうだったんですか。野崎さんとはオランダで建造していた<咸臨丸>
建造の現場で、よくご一緒していました。私は造船所のあるデンハーグに
取材で一ヶ月滞在したのですが、毎日電話で進捗状況を日本に報告してい
たんです。
川縁の土手にあるメルウェーデ造船所は、昔ながらの船台で。近くに初代
の<咸臨丸>を造った造船所の跡地も、産業遺産のような形で残ってい
るんですよ。
日本への回航には中村カメラマンが乗船して、私は乗らなかったのですが
出航した早々にひどい天気で、そうとう揺れたらしいです。野崎さん、
ほんとにユニークで臨機応変な船長さんでしたね。
SF:私も野崎キャプテンとはよく、
元日本郵船の大河原さんのヨットでご一緒
させていただきました。ほんとに楽しい方でしたよね。
ところで、話は絵のことに戻りますが、西村さんはイラストを描かれる時、
どんな画材、道具を使っていらっしゃるのですか?特別な「西村スペシャ
ルツール」なんてあったりするのでしょうか?
あと船、とくに帆船を描くときに、気をつけていらっしゃることなどあり
ますか?
YN:そうですね、まず輪郭は「ロットリング」という製図ペンを使っています。
私達の学生時代には烏口(からすぐち)という道具もありましたが、ロッ
トリングの方が使いやすいので。彩色はもっぱらアクリル絵の具です。
道具といえば、曲線定規はアクリル板を削って自作したりしますね。もち
ろん市販のものも使いますが、なかなかピッタリくるものがない時は、自
分で作っちゃった方が早いですから(笑)。
帆船を描くときに一番気をつけるのは、リギング(索具、ロープ)の取り
まわしです。図面を見ながら、一本のロープがどこから出てどこを通り、
最終的にどこに繋がるのか、そして何のためのものなのか調べます。これ
を理解していないと、正確な絵は描けません。難しい部分ですが、でも一
度覚えてしまえば、他の船も基本的に構造は同じです。
資料は図面が基本ですが、あれば写真もおおいに参考にします。図面は建
造途中で変更になったり、運用中に改造が施されることもあり、実物と
違っていることも多いですからね。

左:「プロイセン」。ドイツPライン所属の世界最大の5本マスト・シップ型貨
物帆船。アメリカ・スタンダードのカン入り灯油を世界に配送していまし
た。
右:アメリカ東海岸のフィッシングボート。店内装飾のための原画で船名は
特定しておりません。
SF:なるほど。模型と同じで「どの時点の艤装を選んで描くか」にもよる訳で
すね。悩ましいところですね。
では、もう既に何百隻と描いていらっしゃるとは思いますが、これから特
に描いてみたい船というのはありますか?
YN:最近、幕末の船に関する資料が新たに出てきているので、そのあたりの船
を描いてみたいですね。たとえば<いろは丸>とか。
当時は、上海やインドネシアなどの植民地で建造された、素性の分からな
い船がたくさん日本に入ってきていたようで、そのへんのちょっと面白い
船を調べて描いてみたいと思っています。
SF:面白そうですね!どんな絵になるのか、また楽しみです。
それでは最後に、Salty Friendsに何かメッセージをいただけますでしょ
うか?
YN:大型帆船というものは、日本人にとっては敷居が高いというか、残念なが
ら文化的に馴染みがあるとは言えません。でも面白い世界なので、ぜひ
もっと皆さんに親しんで、そして学んでいただければ、と思います。
本当にそうですね!お忙しいところ、気さくに長時間のインタビューにお付き
あい下さいまして、どうも有難うございました!!
(インタビュー:Qたろー)